次なる医療ヘルスケアの未来をつくる“芽”を生み出すインキュベーション本部 プロダクト開発室

2020年、メドレーは新規事業創出に特化した『インキュベーション本部』を設立した。「医療ヘルスケアの未来」をつくるべく、取締役インキュベーション本部長の平山を中心に、次の一歩を踏み出すための楔を打つ“事業の種”をまくというミッションのもと、日々奔走を続けている。

「総合力がなければ、医療では戦えない」

こう平山が語るように、この組織にはエンジニアやデザイナーから、セールス、医療現場の経験者、ITコンサル出身者など多様な職種が集結。チームとして“医療ヘルスケアの未来”と向き合っている。
彼らが今取り組むもの、そして2020年以降をどう見据えるかを訊く。

2020年代は、医療を含めDXの時代へ

「デジタルトランスフォーメーションが進まず、複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムが残存した場合、日本はデジタル競争の敗者となり、システムの維持管理費が高騰し、システムトラブルやデータ滅失等のリスクが高まることになる。これにより予想される経済損失は、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)にのぼる可能性がある」
2018年に経済産業省が設置した「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」の報告書『DXレポート』の内容を要約すると、このような記載がなされている。
これを追うように、2019年には、先進的なデジタル経営に取り組む企業を格付けする制度『DX格付』の開始を決定。2020年頭には『攻めのIT経営銘柄』を『デジタルトランスフォーメーション銘柄(仮称)』と名称変更。国を挙げ、DXを至上命令として取り組んでいる。
あらゆる産業でDXの気運が高まる中、医療はその中心にあるといっても過言ではない。

平山 : 「医療の場合、法規制が厳しい関係で、長年テクノロジーの活用に慎重でした。それが、2010年の通達でデータを事実上クラウド上に保存できるようになったり、2015年の通達でオンラインでの遠隔診療が事実上解禁されるなど、活用を後押しする動きは強まっています。限定された条件や診療科でしかオンライン診療ができないなど、まだまだ規制はありますが、それでも徐々に緩和の気運が高まってきています。」

実際、富士経済の調査によると、医療システムの市場は2025年までの10年間で2割増加するといわれ、その規模はおよそ5,300億円にまで拡大が期待される。中でもクラウド化の市場は2016年から2020年の4年で倍増が見込まれるなど、その変化は顕著だ。
2000年代にインターネットで物事を検索する時代が到来し、2010年代前半にはSNSやソーシャルゲームが一気に普及。2010年代後半にはシェアの時代が到来しC to Cが拡大するなど、Web系のテクノロジーは、この20年大きなトレンドによって変化を重ねてきた。
2020年以降は、このトレンドがDXへと傾くのではないか。実際2010年代後半から、重厚長大な産業に挑むベンチャーも増加。製造業や小売業、建設業、金融業、自動車業といった業界でもテクノロジーの波が押し寄せており、上場する会社も生まれてきている。

種をまく、専門組織「インキュベーション本部」

この変革の波を活かし、医療領域でのDXを加速させるべく、メドレーは2019年の後半より新サービスの開発にフォーカスした組織「プロダクト戦略室」を設立。このチームを軸として、新規事業の創出をさらに強化するため、2020年より「インキュベーション本部」として人員を拡大。取締役の平山を本部長とし、医療ヘルスケア領域での事業創造を一手に担う。

平山 : 「よりスピーディに、“事業の種を作るチーム”として組成したのが、インキュベーション本部です。エンジニア・デザイナーを中心に、ITコンサル出身者や事業開発のスペシャリストなど、新規事業の立ち上げに必要なメンバーが集結しました。」

メドレーには、人材採用システム『ジョブメドレー』のほか、医師たちがつくるオンライン医療事典『MEDLEY』、納得できる老人ホーム探し『介護のほんね』、クラウド診療支援システム『CLINICS』など、すでに多様な事業が存在する。その幅をさらに広げようとする背景には、医療特有の事情があった。

平山 : 「持続的に医療の課題と向き合い続けるためには、『ポートフォリオの分散』が重要だと考えます。というのも、この領域で事業の芽を出すには、相応の時間がかかるからです。それぞれ芽が出るものにするには、しっかりと時間をかける覚悟で向き合わなければいけない。であれば、なるべく早く、かつ分散的に種をまく必要があります。
加えて、医療の課題は複雑に絡み合って相関関係があるため、個別の課題解決ではなく全体最適を考えたアプローチが必要となるからです。例えば、患者が利用するアプリを作ろうとすると、患者にとってはあらゆる医療情報がワンストップにまとまっている方がいい。例えば病院と歯医者の情報があれば、それも統合されている方が便利ですよね。情報がつながることで、患者体験はより前に進むと考えています。」

あくまで新規事業のため、まだ表に出せる情報は多くない。2020年初時点で開示できるのは、歯科領域や医療周辺領域を視野に入れたプロダクト開発に取り組んでいるということだ。

平山 : 「歯科は医科と同様にアナログな点が膨大にある。我々は、そこにフィットした形で業務システムを展開したいと考えています。よくいわれますが、歯科は一番健康な人と関わっていて、予防やヘルスケア文脈では重要な接点。『医療ヘルスケアの未来をつくる』と掲げるうえでは、外せないタッチポイントだと認識しています。それ以外の医療周辺領域についても、ユーザーからするとワンストップで管理する体験価値が高いところを中心に、具体的な検討を進めています。」

厚生労働省によると、歯科医院が2019年10月時点で約6.8万施設。コンビニより施設数が多い、巨大な市場だ。ここにはメドレーがこれまで培ってきた医科での経験が活きる場面もある。しかし、それぞれで異なる法制度や商慣習があり、一筋縄ではいかないのが現実だ。

平山 : 「診療報酬制度や社会保障制度は同様のため、横展開できる部分はあります。また、医療の複雑さは身をもって理解しているので、その心構えもある。とはいえ、それぞれで負は異なりますし、本来は各々に専門のベンダーがいるような難易度のある領域。それをワンストップでやるのは相応にハードです。
しかし、それは“患者さんにとって負が大きい”という意味でもある。例えば、様々な薬局がお薬手帳を用意していますし、予約システムもバラバラ。ワンストップにまとめられるだけでも、患者体験は劇的に変わる。その未来に向け、挑戦を続けています。」

各領域のプロが集まる、総合力のチーム

この難題に挑むべく、インキュベーション本部には社内外から精鋭が集められた。
インキュベーション本部の前段にあったプロダクト戦略室の立ち上げは、平山を中心にエンジニアのみ3名でのスタートだった。しかし、2019年末には10名を超える体制に。シニアエンジニアに加え、デザイナー、歯科現場経験者、事業開発担当などバックグラウンドも様々になった。2020年よりインキュベーション本部となった今では、ITコンサル出身者や材料科学の研究者なども参画し、ますます幅広い事業開発ができる体制となっている。

平山 : 「この業界は、総合力がなければ戦えません。Webエンジニアがひとりいたところで、到底太刀打ちできない。例えば、『具体の業務がどうなっているのか』を知らなければいけないですし、それをかみ砕いて業務設計に落とす技術も必須。
その上で、単に課題解決的なプロダクトを作るのではなく、目指すべき理想から逆算したプロダクトにデザイナーが落とし込み、リーンに立ち上げられるWebのエンジニアが実装する。どのピースも重要なので、各々が有機的に動くスペシャリスト集団を組成しました。」

プロセスに沿って順に見ていこう。まずは現場の理解だ。メドレーは、これまで医療機関向けのサービスを提供する中でも、社内で臨床経験のある医師を擁し、彼らの声から数多くの気づきを得てきた。
それと同様に、歯科のプロダクトであれば、歯科の現場経験のあるメンバーが欠かせない。ディレクターを務める山本は、歯科助手を2年間経験した後、メドレーにジョインした。現場の肌感を伝えるキーパーソンだ。

山本: 「歯科の現場、とくに受付業務では、年配の方から学生のアルバイトまで携わる人の幅も広く、独自のルールがある場所も多いです。また、システム等の決裁権を持つのは院長先生ですが、実際のオペレーションで使用するのはスタッフという矛盾もある。難しい領域だというのはプロダクトと向き合う中であらためて感じました。
実際、プロダクトの要件を詰める中でも「そうなったら理想だな」と思いつつ、現場で使ってもらえそうかを考えると、難しいなと思う場面もありました。理論的には正しいけど、オペレーションを加味すると難しい場面もある。そうした、現場との距離感をうまく埋めたいと日々考えています。」

この難易度の高い現場のリアルをプロダクトの要件へと落とし込むのが、SIerやITコンサルの出身者だ。医療の複雑な業務や、各種ドキュメントを分解・理解し、構造化・オペレーションへと落とし込むのはSIerやITコンサル出身者の業務設計力が存分に活きる。

平山 : 「医師と一言でいっても、眼科医、内科医、病理医、放射線医はまったくの別物。それぞれのオペレーションも重視される観点も異なります。例えば、眼科は検査してから診察しますが、外科は逆ですよね。
加えて診療報酬や社会保障、ガイドライン、セキュリティなど加味しなければいけない変数が多い。この多様な領域やオペレーション、膨大な情報を精査し、業務に落とし込む役割は、SIerやITコンサル出身者がとてもマッチしているんです。」

インキュベーション本部には、大手SIer・スタートアップで経験を積んだ牧が在籍する。特定の業務領域にこだわらず、様々な業務ドメインに関わることで得た領域横断的なスキルを活かし、縦横無尽に活躍している。

: 「新規事業に必要なAs-IsとTo-Be、制約条件、雑多な情報を受け取り、パズルのピースをはめていくような仕事をしています。これまでも浅く広く多様な業務を経験してきたので、大体の課題に対し、ゴールの描き方はわかる。それを元に、ゴールまでの道筋を引いています。」

適切に紐解いた業務を、未来志向のプロダクトへと仕込むのがデザイナーの役割だ。「未来志向」はメドレーのバリューにも含まれる言葉だが、現状や個別最適ではなく、描くべき未来からの逆算は個別最適が深刻な医療には不可欠な思考ともいえる。その役割を担うのが、デザイナーの波切だ。

波切 : 「医科や歯科、その周辺領域までカバーできれば、データベースに蓄積した情報や体験を患者にも還元できます。そのためにも、しっかりとデータをクラウドで管理し、患者と連携、活用できる素地を作らなければいけない。それをこのチームでは目指しています。」
そして、それらをプロダクトへ落とし込む実装を担うのが、リーンな開発に長けたWebエンジニアだ。そのひとりである簗井は、個人的にも医療に強い思い入れを持つ。

簗井 : 「わたし自身持病があり、普段から病院にいく際に、医療情報が共有されない負を感じていました。なので、メドレーがやろうとしている事業は、自分事としてとても重要だと感じています。ただ、実際に業務で知れば知るほど、想像以上にデジタル化が進んでいない。課題の大きさを日々実感しています。」

もうひとりは、竹内。2015年の入社後、メドレーが手がけるほぼすべてのプロダクトに関わってきた。その幅広い経験を活かし、2019年10月に前身であるプロダクト戦略室に参画。現在はインキュベーション本部のプロダクト開発室で、インフラからバックエンド、アプリ、フロントエンドまで幅広く開発を担当する。

竹内 : 「CLINICSカルテを経験したことが活きている部分は多いですね。前提やオペレーションの違いはありますが、プロダクトのナレッジは共有できています。とはいえ、歯科現場経験者の山本さんの話には驚くことばかり。歯科には歯科の課題があるとも日々感じています。
この難しい領域に挑むからこそ、インキュベーション本部は、様々な背景を持っている人との協業が欠かせません。それぞれの背景やスキルをお互いに活かし合えれば、同じチームで開発する強みも相乗効果が生まれると思っています。」

彼らに加え、最近ではセールス担当も参画。プロダクトの提案を通しPMFの検証を進めている。

平山 : 「セールスといっても、今のフェーズではBizDev的要素もありますし、市場啓発の役割もある。純粋に売上を目指すのではなく、市場側とコミュニケーションする重要な役割と捉え、向き合ってもらっています。」

医療DXの鍵は、いま踏み込めるか

こういった「多様なスペシャリスト」の集まりで、医療ヘルスケア領域の未来に挑むインキュベーション本部。ただ、彼らが見据えるのは明確に見える山の頂ではなく、おぼろげに見える輪郭ほどの目標。多様なステークホルダーに多様なルール、それらを加味して立ち上げるのは、いうまでもなく難易度が高い。

平山 : 「医療は計画経済なので、その拡大にも国の方針の影響を受けます。社会保障等の話を含め、単純な市場原理だけで語れません。例えば、オンライン診療も徐々に規制緩和されると言われていましたが、思った以上にされなかった、とか。グレーゾーンには踏み込みたいけれど、踏み方を間違えると一気に業界から外されることもある。一般的な事業と比べればとにかく変数が多いんです。」

ただ、2015年にメドレーに参画し、以降この領域に挑み続ける平山の目には、ここ数年の変化は大きな追い風だと捉えている。

平山 : 「オンライン診療や電子処方箋は、少し前では考えられないほどの変化を遂げています。例えば、厚労省や医師会も、前向きにクラウド化を啓蒙している。現場に浸透し、業務で活用されるのはまだ時間がかかりそうですが、有識者会議でも『クラウドを促進しよう』『医療のデータは標準化ありきでやるべきだ』と語られるようになってきました。」

医療は制度や国といった大きな流れに変化がなければ、ドラスティックには動かない。ただ逆に言えば、大きなプレイヤーに変化の兆しが見えれば、現場への落とし込みもそう遠くないともいえるだろう。そこを担うのがメドレー、ひいてはインキュベーション本部の役割だ。

平山 : 「制度が変わっても、みんなが使ってくれないと現場は変わりません。これをつなげるのは、メドレーの重要な役割だと感じています。医療におけるDXが進むか否か、まさにその分け目の時が近づいている。その時に、多領域で思い切り踏み込めるかはこのチームにかかっているのだと思います。」

Text/Interview: Kazuyuki Koyama
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Date: FEB 2020  
本記事の組織名、内容等は取材当時のものです
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